他ジャンルと同じ土俵の上で論議されるべき音楽ではない
グラインドコアという音楽は特殊だ。
音楽ジャンルの一つであるのには間違いないが、他ジャンルと並べて話すのには少々支障が生じる。
例えば、グラインドコアという音楽は、演奏に整合感がない方が良い場合もある。
特にブラストビート時には、各パートが何をやってるのか判らなくなることは、グラインドコアにとってはむしろ良いこととみなされる場合もあるのである。
他にも、音質がクリアでないことは、他ジャンルにとってはマイナスでしかないが、グラインドコアの世界では、良い点として挙げられることもある。
故に他ジャンルと同じ土俵の上で論議されるべき音楽ではない。
水掛け論になってしまうからだ。
これは、パンクロックが「演奏が下手な方が生々しくて良い」と評されるのと少し似ている。
どれだけ初期衝動を音にたたきつけているか
では、グラインドコアはどのように評価されるべきか?
演奏力、構成の緻密さ、音質のクリアさなどは二の次であり、評価の対象にはならない。
「どれだけ初期衝動を音にたたきつけているか」が評価のすべてである。
この評価は文章化すると非常に曖昧な印象を受けるが、実質的にはそれほどぼやけた線引きではない。
聴いていて思わず暴れたくなるようなもの。
拳を握って頭を振ってしまうようなもの。
それが優れたグラインドコアだ。
「Napalm Death」の「Scum」。
「Carcass」の「Reek of Putrefaction」などがその最たるものであろう。
前者はブラストビート時にはテンポがよくわからなくなり、後者はそれに加えて、それぞれのパートが判別できないほどの劣悪な音質。
それでもびしびしと衝動を感じることができる名盤なのだ。
奇跡的にそうではない名盤もある
グラインドコアは演奏はボロボロ、音質は劣悪なのが普通みたく書いてきたが、奇跡的にそうではない名盤もある。
演奏に整合感を持たせたり、整理された音像を作ることは、緻密に音楽を形作るということだ。
それは初期衝動を音に乗せる行為とは対極に位置する。
だから「奇跡的」という表現を用いた。
例えば「Terrorizer」の「World Downfall」。
ドラマーのPete Sandovalが叩くブラストビートは、表と裏がはっきりとわかる極上のものだ。
それほど正確でありながら、衝動を感じることができる。
私はこれ以上のブラストビートを聴いたことがない。
他にも、「Brutal Truth」の「Extreme Conditions Demand Extreme Responses」。
これは曲全体としての整合感がすごい。
非常に正確でタイトなプレイだが、聴いていると血がたぎってくる。
奇跡としか言いようがない。
グラインドコアは名盤が少ないジャンル
グラインドコアは名盤が少ないジャンルであると感じる。
それだけ表現が難しい音楽なのかもしれない。
次に現れる名盤はどのようなものなのか、私は期待しながら待ち続ける。
2013.7.23 Freakz
(追記)
現在も活動している「Napalm Death」は未だに優れたグラインドコアを生産している。
音像も、こもっているようで、でも各パート聞き分けられるという非常に独特の音作り。
「Napalm Death」でなければ出せない音になっているのがスゴイ。
「Carcass」は活動休止を経て現在も活躍中。
音質はクリアに、演奏も整合感のある現代の音作り。
グラインドコアから少し離れたかもしれないが、それでも底の方に漂うグラインドコア魂がファンにはたまらない。
「Terrorizer」も長い空白期間を経て復活。
現在も活動中。
LOUDPARK16でライブを観られたのは貴重な経験だった。
「World Downfall」ほどの破壊力とキャッチーさはないものの、グラインドコアを貫いている。
「Brutal Truth」は不定期に活動をしていたが、現在は停止中。
サイケデリックな作風へと変化を続け、ノイズ寄りの音楽と言っても良いかもしれない。
2022.5.12 Freakz
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