渡辺優 月蝕島の信者たち

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著者について

1987年宮城県生まれ。2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。

他の著作に『自由なサメと人間たちの夢』『アイドル 地下にうごめく星』『カラスは言った』『私雨邸の殺人に関する各人の視点』などがある。

あらすじ

後藤は大学サークルの女友達・金子とネットで活動する新興宗教BFHを立ち上げ、大バズりした。

礼拝施設を建設するためのクラファンツアーを実施し、岩手の無人島・月蝕島に重課金信者を集める。

上陸翌日、信者のYouTuberが首なし死体となって殺され、その後も次々と信者が殺されていく。

犯人はいったい誰なのか?

船は3日後まで来ない。

極限状態で信じるべき神の存在とは?

そして最後は、誰も――。

『私雨邸の殺人に関する各人の視点』で話題となった探偵不在のクローズドサークル・ミステリー、再び!

※以下ネタバレがあります。未読の方はスクロールしないでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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概要

タイトルには現れてはいないが、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を念頭に書かれている。

特に序盤、登場人物がそれぞれの視点で描かれるパートは意識して書いたように思われる。

状況的には、3日後にならないと迎えの船が来ないというお決まりのクローズドサークルもの。

しかし、いわゆる「探偵役」はおらず、登場人物がそれぞれ推理したり議論したりしながら進む。

このあたりもクリスティーへのオマージュだろう。

さて、『そして誰もいなくなった』オマージュはさんざん擦られてきたところなので、新たなアイデアや驚きをもたらすことができるのか、そこが焦点になった気がする。

物語

事件前

しかし船に乗っている人間の中で、三日後の月蝕を島から眺めることができた人間は、二人しかいなかった

p33

叙述トリック

ここは上手だねぇ。

月蝕までに二人以外殺されちゃうかと思っちゃったよ。

しかもこれがラスト辺り、後藤とミアのシーンとつながってくる。

よく考えると「月蝕を見られない」イコール「殺された」じゃないもんねぇ。

 

「可愛らしい名前ね。猫みたい」

p38

ミステリではあまり見かけないキャラクター、桃木
一番印象に残ったのは桃木円華だなぁ。
あまり今まで読んだ小説の中には、こんな天然というか、理屈の通じない、空気の読めない人物が出てくることはなかった。
女性作家だけあって、男性の頭の中からは出てこないキャラクターだと思う。
しかし、これは後藤の嘘である。
クラウドファウンディング最高額寄付を行った者の中に、田中という人物は初めから存在しない。
p43
架空の人物「田中」の存在
参加者として捏造された「田中」なる人物は存在しない。
(これはかまいたちの夜オマージュかも)
しかしそのことを知っているのは運営側の人間3人だけ。
故に運営側の推理と信者側の推理が食い違うという面白さがある。

第1の殺人(塙)

人間の身体だ、と理解するのに時間がかかった。

その身体はあるべきところにあるべきものがなく、代わりに無数の花が散らされていたので。

p80

密室殺人

礼拝堂の中で塙の死体が見つかる。

入口の扉・内部の参列席の隙間・祭壇の周りには古いクモの巣が張っており密室かと思われたが…

コブスプレーという演劇用の小道具で張られたものだった。

 

桃木が自室から見かけた人物

明け方に桃木が部屋から見たずんぐりとした人物は誰?

金子に巧みに呼び出された塙の後ろ姿だった。

 

1人分の足跡

礼拝堂に向かう森の遊歩道には、1人分の足跡しかなかった。男性サイズのスニーカー。(天羽談)。

これは未解決のまま終わった気がする。本来ならば金子の往復の足跡が残っているはず。ボートを使ったという手もあるが、なぜそこまでする必要があるのか?
密室化した理由

犯人はなぜ現場を密室化したのか?

これも明言されないまま終わった。偽のクモの巣を張ることによって、金子はなにか利益があっただろうか?

 

花で飾った理由

金子はなぜ塙の死体を花で彩ったのか?

必然性は明言されていない。野々村殺しの際にアリバイを作るためとも解釈できるが、タイミングがシビアだ。それよりも、死は救済なのだから、花で彩られるべきだという思想的な動機のほうがしっくりくる。

 

首を切り落とした理由

なぜ首が切り落とされていたのか。

塙のスマホの中を見られたくなかったため、顔認証できないように切断して処分した。塙のスマホには金子が祈りを捧げる姿が写っていたから。しかしこれもどうもしっくりこない。首を切り落とすなんてとんでもない手間だと思う。天秤に乗せても釣り合わない気がするなぁ。

 

第2の殺人(野々村)

うつ伏せに倒れた人間――その背中と首の後ろに、一本ずつ突き刺さった刃物がきらめいている。

p121

この第二の事件が一番面白いところだろう。

状況は以下の通り。

教祖役の天羽がグランピングドームで一人で待つ。それ以外の人物はリビングで待つ。一人ずつ順番にグランピングドームへ向かい、面談する。持ち時間20分。ドームまでは歩いて5分。その間に屋外キッチンがある。

時系列は以下の通り。

  • 12:55 不破が出発。ヴィラの3階で桃木と増田が会話している(地の文)。
  • 13:30 不破が戻る。同時にミアが出発。不破、疲れたと行ってヴィラの2階へ戻る。増田、リビングに降りてくる。新堂、休みにヴィラの自室へ。
  • 14:10 金子、トイレに立つ。時間通りに戻らないミアに腹を立て、野々村が出発。ミア、リビングに戻る。リビングと屋外キッチンの中間地点で野々村とすれ違ったと証言。ミア、部屋に戻る。
  • 14:15 桃木、部屋からリビングに戻る。
  • 14:55 野々村が戻らないため、金子が様子を見に行く。
  • 15:00 金子が悲鳴を上げる。天羽とリビングの面々がやって来て、屋外キッチンで野々村の死体を発見。

その他の状況は以下の通り。

死体の周りには瑞々しい花が巻かれていた(摘まれてから時間が経っていない)。天羽が言うには、野々村は面談に現れなかった。ヴィラの内側にいた人物が、ロープや脚立などを使って部屋から抜け出した形跡はなかった。

普通に考えると、以下の推理ができる。

  • ヴィラから出られなかった不破、桃木、増田、新堂、後藤に犯行は絶対に不可能。野々村に接触することすらできない。
  • 野々村が出発してからミアが戻るまでせいぜい5分。殺すことはできそうだが花を摘んで敷き詰める時間がない。それに、ミアがリビングに戻ってから死体発見まで50分ほどある。ミアが犯人ならば花はしおれているはずだ。
  • 金子は野々村を殺せるが、花を摘んで敷き詰める時間がない。
  • 犯人が事前に花を摘んでいた可能性もない。塙の遺体発見時から単独行動を取った人物はいない。それ以前に摘んだ花ではしおれているはず。水につけていたらしおれないが、花はどれも濡れていなかった。
  • 一方天羽には野々村を殺害し、花を摘んで飾る時間は十分にある。

という感じで天羽が犯人としか思えないのだが、そう簡単には行きませんやね。

 

野々村が現れなかったのに天羽は何をしていたの?

数十分、何もしないで待っていたというのはいかにも不自然ですが、これは終盤で明かされます。

天羽はミアから自分が同性愛者である事実を告げられていた。その件で、リビングに戻った時に恋人の後藤と揉めているのだろうと予想したのだ。たしかにそんな状況のリビングには戻りたくない…。

 

花を摘んで敷き詰めたのは犯人である、という思い込み
犯人ではなく被害者が花を摘んでいた、というところが意外で面白い点だ。被害者が面談に行かず花を摘んでいたとしたら、金子のアリバイが崩れる。

 

第3の殺人(増田)

増田はがくんと身体を折り曲げ、胸をかきむしりだした。のたうつように息をしながら、やがてその全身が、がたがたと痙攣し始める。

p158

誰が犯人なのか疑心暗鬼に

ジンを飲んだ直後に死亡したことから、ジンの中に毒が入っていた可能性が高い。

ジンの持ち主は新堂だが、直前に席を交代したことから増田が被害者となった。

ジンに毒を入れるチャンスは誰にでもあった。

犯人は新堂を狙ったようにも思えるし、新堂がわざと席を変わったようにも見える。

疑心暗鬼になってドキドキするシーン。

 

桃木がみんなで一緒にいることを拒み自室へ。

クローズドサークルの定番、なぜ単独行動をするんだ!

とヤキモキしますが、この桃木のキャラクター設定が上手くいっている。

まあ桃木ならそう言うだろうな、と納得できます。

 

第4の事件(不破)

いつの間にか、新堂は治療の手を止めていた。

その手が不破の顔の辺りに一瞬だけ、撫でるように触れる。

「駄目だ。死んでる」

吐き捨てるように新堂は言った。

それで後藤は、ああ、瞼を閉じたのかと理解した。

p187

タイマーを用いて引き起こされた停電

タイマーは誰にでも設置できただろう。

事件は停電中に起きたから、その時発電機の前にいた後藤には犯行は不可能。

停電中、リビングにいたのは天羽、金子、新堂、ミア、不破。

内部犯でなければ発電機にタイマーを仕掛ける理由がない、という新堂の推理も説得力がある。

 

新堂が、不破の身体を足で押し、リビングルームから締め出す

確かにいくら新堂が参っているとはいえ、このシーンは違和感があった。

実際は不破は死んでおらず、不破を逃がすためだったのだが、これだけで見破れる人はそういないだろう。しかし新堂が不破を庇った意外性、不破の死体が後に消えたのは生きていたからだ、という驚きにつながる。

 

金子は停電直前に目薬をさしていた
金子は停電のタイマーをセットし、瞳孔を散大させる目薬を指し、目を閉じて機を待っていた。停電の中素早く動くためだ。しかし、これも気づくことは難しいだろう。

 

リビングと前庭の間の窓が開いていた

これは昼にミアが閉まっていたことを確認している、が、いつ開けられたものかは分からない。

田中が外から入ってきた可能性を残しておきたかったのだろう。

外から誰かが侵入した割に、床は全く汚れていなかった。

 

結局全員自室へ

リビングに固まっていた中で事件が起きたことから、

皆が自室へ戻る必然性が生まれる。ここはうまい演出だと思う。

 

マスターキーをどうするか

話し合いの結果、容疑の薄い後藤が持つこととなる。

しかし後藤はミアと同室だ。

後藤は鍵を胸ポケットに入れて、そのまま寝てしまう。

もしかしてミアが…なんて疑ってしまうよこんな状況!

 

第5の事件(金子)

それでも、やがて見つけた。

突き出た岩礁の上、絶えず押し寄せる波に洗われている、うつ伏せに倒れた人間のシルエットを。

p203

金子の部屋の密室

金子の部屋はマスターキーで開けられたが、ドアガードがかかっていて少ししか開かない。

部屋の中には花が落ちている。

隣の塙の部屋にマスターキーで入り、金子の部屋のベランダにも花があるのを見つける。

そこでミアが崖下に人間のシルエットを見つける。

金子が自殺を図ったように見えるが、そのへんは後ほど検討される。

 

誰の死体?

ミアがまずあれは金子なのか疑う。

うつ伏せで顔が見えないからだ。

もしかして増田の死体かもしれないと、サンルームを確認することになる。

実際は人形だったのだから、ミアの発言は真相を示唆していたとも言える。

 

サンルームで見た光景

光の中に横たわる遺体は――ひとつしかなかった。

p206

この場面の表現が秀逸。

後藤は崖下にあったものが古い知り合いの金子だとは信じたくなかった。

もし、ミアの言った通り、サンルームに遺体が二つではなく一つしかなかったら、金子は生きている可能性が残る。

そこで上記の表現である。

ああ、やはり崖下にあるのは増田の死体で…と思っているとひっくり返される。

不破の死体ではなく増田の死体だった。さすがに不破と金子を見間違うことはない。ここで読者はかなり大きな衝撃を受けることと思う。

 

不破の死体の消失

読者はここで、もしかしたら崖下に落ちているのは金子ではなく不破だろうか、などと考えてしまう。

それとも犯人が何らかの理由で持ち去ったのか。

不破は死んでいなかったのだが、これはなかなか見抜けないので、ラストで衝撃を受けることとなる。

 

金子の部屋の密室の検証

正面のドアを開けるのにはマスターキーが必要。

マスターキーは後藤がずっと持っていた。

隣の塙の部屋のベランダから飛び移って侵入するにせよ、塙の部屋の鍵を開けるためのマスターキーが必要。

ここで天羽が実は核心を突いている。

天羽は新堂に、「不破が確かに死んでいたか」確認するのだ。

もし生きていれば、不破が金子に部屋に入れてもらい、施錠してドアガードをし、金子を突き落としたとも考えられる。

つまり不破がまだ金子の部屋に潜伏しているという案だ。

しかし新堂は不破は死んでいたと嘘をつくため、この案は却下される。

 

新堂の離脱

誰も信じられないということで、新堂は3つあるグランピングドームの内の一つに立てこもる。

荷物と食料と鍵、そして包丁を持って、彼は離脱した。

この状況では自然な行動に思える。

 

桃木は散歩へ

これは天然キャラ故か、正常性バイアスか、その両方か。

桃木はこの状況で散歩に出ていってしまう。

 

ミアは体調不良で、部屋で休む

後藤が部屋まで送り届け、中から鍵とドアガードを掛けさせる。

 

金子の部屋の密室、再検証

残った天羽と後藤で検証を行う。

ドアガードはビニール紐があれば実は掛けられる、ということを天羽は知っていた。

やり方までは忘れたが、YouTubeで観たことがあるそうだ。

ということはマスターキーを持っていた後藤には犯行は可能だったことになる。

物置にあった避難ハシゴを試してみるが、そもそも引っ掛けるところがなく、使い物にならなかった。

崖下に降りる方法はない。

ヴィラの門の外側から崖下にも行けない事がわかる。

 

切断された首の再検証

塙のバッグからスマホが出てきた。

開こうとするがロックされている、顔認証のようだ。

ここで二人は首が切断されたのは顔認証のためではないかと考える。

犯人は塙のスマホの中にある何らかの情報が欲しくて、塙の首を持ち去った。

または塙のスマホの中にある何らかの情報を見られたくなくて、塙の首を持ち去った。

しかし犯行現場は礼拝堂で間違いない。

斧や血の跡が残っていたからだ。

それでは首を切断するより、ヴィラからスマホを持ってきたほうが早い。

しかし、スマホは塙の部屋にあって鍵がかかっていた。

マスターキーも後藤の部屋のチェストに入っていた。

しかし塙の部屋の鍵を塙は持っていたはずだ。それを使ったほうが良い。

しかししかし、塙の部屋を開けてスマホを入手できたのなら、スマホを持って礼拝堂に行くか、どこかに捨ててしまえば良い。

首を切るという大掛かりな手間を掛ける必要はない。

そう考えると、塙は鍵をなくすなり落とすなりで、身につけていなかったのかもしれない。

そうなると、もし塙のスマホに見られたくないものが入っていたとしたら、首を切り落として捨てるしかない。

首を切り落とす手間と、天秤にかけて釣り合うようなもの。

犯人がわかってしまう動画とか、それくらいでないと割に合わない。

この辺りの論理的推理は迫力がある、面白い。

 

天羽の謎の行動

散歩している桃木と出くわした二人。

桃木が花を摘んでいるのを見て、何かを思いついたらしく、野々村の死体を見に行く。

後藤は一人ヴィラに戻りミアと合流。

野々村の死体の指を調べていた。野々村の指は緑色に染まっていた。屋外キッチンで花を摘んでいたのは野々村だったのだ。

 

金子の部屋の密室再再検証

一方後藤とミアは、金子の死体は上の屋上、もしくは一階上の新堂の部屋から落とされた可能性に気づく。

金子の部屋には鍵がかかっていたが、ドアガードはどうやら知識があれば外側からどうとでもできるらしいし。

新堂の部屋を確認する。

確かに金子の部屋の真上だから、ここから死体を落とすことは可能。

例えば金子を部屋に呼び出し、殺害。

部屋の鍵を奪って、崖下へ突き落とす。

金子の部屋に入り、花を撒き、ドアガードを外側から掛け、施錠する…確かに新堂には可能そうだ。

一方屋上は、部屋みたくベランダが張り出していない。ここから死体を落としても、新堂の部屋のベランダに落ちてしまうので無理っぽい。

この辺は論理的で納得できる。

 

第6の事件(新堂)

こちらを向いて倒れた死体の顔に、後藤は二重の意味で見覚えがあった。

新堂だ。

顔中に赤い斑点が浮かんだ、青黒い顔。

p241

戻った天羽と合流し、3人で昼食を取った後、立てこもっている新堂と話をしに行くことになる。

ミアは自室で待ち、天羽と後藤でグランピングドームへと向かうと、入口にバリケードをした状態で新堂は倒れていた。

グランピングドームなので、アクリル板を通して中が見えるのだ。

死に様は増田と同じ様子、つまり毒殺だ。

 

毒は何に入っていた?

新堂は立てこもる際に、未開封の食料だけを持っていった。

気づかれないように毒を仕込まれたのだろうか?

しかしその割には、死体のそばに食べ物や容器は落ちていない。

遅効性の毒だった、という可能性は残るが、ここも不思議に感じるポイントだ。

食料に入っていたのではなく、青酸ガスとしてグランピングドーム内に送り込まれたのだった。

 

天羽の気づいたこと

天羽はさっき、野々村の死体を再び調べに行った。

花を摘んでいる桃木を見て思いついたのだそうだ。

彼は野々村の指を調べた…指先は緑色に染まっていた。

つまり、花を摘んだのは犯人ではなく、野々村だったのだ。

野々村が花を摘んでいた理由は不明だが、となるとミアのアリバイは崩れる。

(実はここで金子のアリバイも崩れているのだが、もう死んでいると思っているので彼らは言及しない)

しかしよく考えると、ここはちょっと変だ。確かに金子のアリバイは崩れる。しかしミアのアリバイは崩れない。ミアがリビングに戻ってから野々村の死体発見までに50分ほど経っている。それではやはり花はしおれていたはずだ。ただし、50分で花がしおれると言い出したのはミア自身だし、どのくらいでしおれるかは微妙なところではある。

 

第7の事件(桃木)

血の出どころは、一目で分かった。

桃木の右側頭部。

耳の横から顔を二つに割るようにして、斧が深々と刺さっている。

p252

ヴィラに戻り、ミアと合流し、桃木を探しに行く。

桃木は礼拝堂へ続く小道のそば、湖のほとりに浮かぶボートの中で死んでいた。

ボートの花を敷き詰めて。

塙の首を切った斧だろう。

 

ここからは推理どころではない

残っているのは3人。(と彼らは思っている)

ここでついに天羽は、田中という人物は存在しないとミアに告げる。

当然天羽は次のように考える。

  • 自分が犯人ではないことは自分が知っている。
  • 後藤には野々村の事件のとき、チャンスはなかった。
  • ミアの野々村殺しのアリバイは崩れた。(と天羽は判断した)
  • 後藤と同室のミアなら、後藤のマスターキーをこっそり抜き取って金子の部屋の施錠ができた。
  • 桃木が殺された時間、ミアは一人だった。
  • ミアが犯人としか思えない。

しかし後藤は以下のように考える。

  • もちろん自分は犯人ではない。
  • また、思い出したことがあって、古いクモの巣を作る演劇用の小道具があって、コブスプレーという。
  • コブスプレーで礼拝堂の密室を作ることができる。
  • しかし過去に演劇に関わったことのないミアはコブスプレーを知らないはず。
  • 天羽は後藤と一緒に演劇に関わっていたのだから、コブスプレーを知っているはず。
  • また、天羽は野々村殺しのとき、当然時間があった。
  • 野々村の指先が緑に染まっていたことは天羽しか見ていない。
  • 一人で行動していたのだから、桃木を殺すチャンスもあった。
  • 天羽が犯人に違いない。

というわけで天羽は斧を手に、後藤はナイフを手に一触即発だ。

 

ミアが後藤に打ち明けていないこと

幸い殺し合いにはならなかったが、お互い犯人だと思っているので別行動を取ることにする。

その際、天羽はミアが後藤に話さねばならないことがあると告げる。

それを告げていないこともミアを疑う材料となっているのだ。

ミアは後藤に身の上話をした時に、ミアの兄が同性愛者であったが、厳格な両親はそれを許さず、ミアの兄は勘当されたと話した。ミアは兄が好きだったので両親に抗議したが受け入れてもらえず、ミアも家を出ることにした。しかしその身の上話は嘘で、ミアにはホントは兄はおらず、ミア自身が同性愛者だった。それを恋人である後藤に告げられずにいたのである。

 

どう過ごすか

話し合いの結果、マスターキーを湖に捨て、お互いに自室にこもることとなった。

 

第8の事件

仰向けに倒れた亡骸の、元は純白だった衣服のほとんどが、己から流れ出た血に染まっていた。

すでに命が無い量の出血であることは明らかだった。

p270

後藤が浅い眠りから目を覚ますと、ミアがいない。

ドアガードは外れ、ドアが開いている。

ミアはどこへ行ったのか。

探しに出る。

天羽の部屋の扉がわずかに開いており、前に花が一輪落ちている。

ドアを開けると血の色が飛び込んでくる。

 

ここの叙述が秀逸

後藤は天羽の部屋を開け死体を発見する。

読者は、殺されたのは天羽か?ミアか?とドキドキしながら読む。

死体の描写を見てもどちらかなかなか分からない。

なぜならミアは白のワンピース、天羽は全身白の教祖ルックをしていたからだ。

そこで後ろからミアに声をかけられ、死んだのが天羽だったのだとようやく分かる。

 

後藤の崩壊

生き残りが二人になった時点で、後藤は考えるのを止めてしまった。

愛するミアが犯人なわけがないのだ。

だから田中が犯人だと信じることにした。

彼の苦悩も頷けなくはない。

ここから読者は、ミアが犯人だったのか、と思いながら読むことになる。

いや、疑り深いミステリマニアはここからが本番と姿勢を正すかもしれない。

 

その後の二人

二人でグランピングドームへ入る。

3つあるうち、一つは新堂が死んでいるので残り二つあるわけだ。

二人寝転んで星空を見上げる。

もうすぐ月蝕が始まる。

 

秀逸な叙述トリック

この時点でp33の叙述を思い出す人は多いだろう。

月蝕を観ることができたのは二人だけだった、というあれだ。

これは、他に生きてる人なんていない、と読者に強烈に印象づけるトリック。

お見事である。

 

読者大混乱

いよいよ、ミアが後藤に告げなければいけないことを告げる。

前情報として、ミアが身の上話をした時は以下のような内容だった。

ミアには兄がいて、同性愛者だった。

しかし厳格な両親はそれを許さず、兄を勘当した。

兄を慕っていたミアは両親と掛け合ったが分かりあえず、ミアも家を出ることにした。

そこでミアが、グランピングドームで、後藤に放った言葉は…

「私に兄はいないの」

p277

ここですぐに場面は翌朝になってしまうので、読者は何が起きたか分からず大混乱となる。

ミアはなぜ兄がいるなどという嘘を言ったのか…

 

第9の事件

眩いばかりの水平線を望むドームの中。

新たな死体が一つ、昇ったばかりの朝日に照らされていた。

p277

この時点で新たな死体が誰なのかは描かれない。

あの後、二人に何があったのか、殺されたのはどちらなのか…

 

衝撃の展開

さらに仕掛けてきますね。

この後視点は、なんと不破になるのである。

彼は生きていたのだ!

では犯人は不破だったのか、などと考えながら読者は読む。

しかし不破は犯人を恐れているようだ、どうなっているのか、と読者はパニックである。

 

なぜ不破が生きているのか

ここで明かされるのは断片的だが、頭には包帯が巻かれ、治療されている。

昨日まで自室のバスルームに潜んでいた。

鎮痛剤を飲んで、とぎれとぎれに眠っていた。

人の気配がないのを感じ、寝室に出て月蝕を眺めた

そして今、迎えの船に乗るために桟橋にやって来たのだ。

 

現れた女

「不破くん」

と声をかけられる。

その人物が誰かはまだ描かれない。

「彼女」と記述しているから女性だ。

読者は思う。

月蝕を見られたのは二人だけ。

うち一人は不破。

ではもう一人は?

生きていたのはミアと後藤。

女性はミアしかいない。

では歩いてきた人物はミア、ドームの中の死体は後藤か、何がどうなったんだ?

このドキドキ感がたまらなくてミステリを読み続けているんだ私は!

 

意外な展開は終わらない

しかし読者はまた騙されたことに気づく。

現れた女は金子だった。

金子が言うには、彼女も死んだふりをして生き延びたという。

今この島にいるのは不破と金子の二人だけ。

犯人はミアで自殺した。

そう言う金子の腕は何故か背中に回されていた。

 

犯人と不破の会話

信じてもらえてないと悟った金子は背中から斧を取り出した。

犯人は金子だったのだ。

天羽は、金子が部屋を訪れると理由も聞かず開けてくれたそうだ。

だから天羽は理由がわからず死んだと思うとのこと。

不破も自分が生きている理由を明かす。

新堂は不破が死んでいるとわざと嘘をついたのだ。

倒れている不破に向かって口の動きで2回、「逃げろ」と示した。

そして不破をサンルームに押し込んだのだ。

夜中に新堂がやって来て、簡単な治療をし、新堂の部屋のバスルームに隠れているよう指示した。

しかし金子が殺され(たように思われ)、新堂はドームに移動するから、不破は自室のバスルームにいたほうが良いと言われ移動した。

新堂はなぜ不破を助けたのか、理由は言わなかった。

これははっきりしないまま終わるが、心に切なさが残って良い。

金子が再び話す。

金子はリビングに盗聴器を仕掛け、会話を盗み聴いていた。

新堂は、増田と同じ毒で死んだそうだ。

しかし食料は落ちていなかったが…

そして金子が斧を振り上げる。

 

まだ意外な展開は終わらない

その時一人の人影が金子に飛びついた。もみ合った末、金子から斧を奪ったその人物は、後藤だった。

 

真相

以下、金子が語った内容。

後藤とミアが入ったドームには仕掛けがしてあって、換気扇から青酸ガスを送り込んだ。

後藤は理由あってもう一つのドームに移っていたから、ミアだけが死んだ。

新堂も同じ手口である。

暗闇の中で不破を狙って殴ったのもトリック。

まず足を捻挫したというのは嘘。

痛いふりをしていただけ。

あとは瞳孔をひらく目薬をさし、停電になるまで目をつぶっていた。だからすばやく不破を狙って殴ることができた。

スマホは電波遮断器で圏外にしていた。そうすればみんな持ち歩かずにいるだろうから、スマホのライトを付けられることもない。

崖下の死体は、以前演劇で用いた人形。

ちえみ先輩が舞台のために作った人形。

 

ちえみ先輩

金子の回想シーンになり、ちえみ先輩との関係が描かれる。

ちえみは宗教上の理由で自殺は禁じられていた。

しかしそれをほのめかすちえみを見て、金子は窓から突き落とした。

いや、突き落としてあげた。

ここの心理描写は入念に描かれていて、この物語の中で一番迫力を感じた。

 

真相②

ちえみの件以来、金子は歪んだ考えを持つに至った。

生きることは呪いで、死だけが救済なのだと。

簡単に言うと、生という檻の中からみんなを解放してあげたかったようだ。

金子は本当にそう信じているようで、みんなを解放できますようにと往路の船上で祈っていた。

その場面を塙がスマホで撮ってしまった。

そして、そのスマホを天羽や後藤に見られるわけには行かないと思った。

なぜなら金子はを信じていないことを二人は知っていたから。

その祈りの対象が死だと二人が気づいたら計画の妨げになるかもしれない。

少し苦しいが、まあもし二人が見たら違和感は感じただろう。そこから疑いが生じてもおかしくはない。

つまり塙の首を切断したのは、顔認証させないためだった。

塙には「BFHの裏の顔を教える、後藤には前科もある」というと簡単に誘いに応じて礼拝堂まで来た。

で、後頭部を斧で殴って殺した。

しかし塙はスマホ2台持ちだった。

礼拝堂に持ってきたのは、自分を撮ったスマホとは別だった。

だから仕方なく首を切った。

言及はないが、塙は自室の鍵を身に付けていなかったのだろう。でなければ鍵を奪ってスマホを破壊すれば終わることだからだ。

切った首は湖に捨てた。

クモの巣に見えたのはコブスプレー。

なぜ花を散らしたかは書かれていないが、死が救済だ、という考えからだろうか?

野々村には、花を集めて屋外キッチンで待つように、リビングでこっそり手紙を渡した。

天羽から野々村だけに当てたメッセージがあると書いて信じさせた。

増田が飲んだ毒はジンの中に入れておいた。

別に誰が死んでも良かった。

人形はスーツケースに入れて持ってきていた。

避難用縄梯子に人形をくくりつけて、ちょうどうつ伏せになるように人形を置いた。

本来はその後、ヴィラを抜け出して潜伏する予定だったが、人形の細工に思ったより時間がかかってしまった。

そして新堂が朝早くリビングに降りてきてしまったので、金子は自室から出られなくなった。

つまり、あの人形を発見したとき、金子は自室内にいたのだ。

金子は「動揺してて、部屋に隠れる時にドアロックを掛けた。中にまだ人がいるって教えてるようなものだ」と言っているが、ドアロックは関係ないのではないだろうか?ドアロックがかかっていたとしても、犯人が金子を殺し、鍵を奪い、崖下へ落とし、施錠して立ち去ったという解釈はできるはずだ。マスターキーの存在もあることだし。それよりドアガードのほうが肝要だったのではないだろうか。ドアガードがかかっていれば、まだ室内に人がいると思われる確率が高い。金子の自殺と思われるかもしれないが。そうは言っても自室に隠れる際にドアガードを掛けなかったらすぐに見つかってしまうだろう。つまり、これは仕方なかったことのように思える。

桃木は、湖の方に斧を取りに行った時に出くわし、そこで殺した。

グランピングドームに青酸ガスを流し、すべてを終え、金子は月蝕を見た

金子は死が救済、生は呪いというが、後藤は納得できない。

そう考えないと、金子がちえみを殺したことを正当化できないだけだ。

後藤の言う通り、「善悪の逆張り」だ。

 

終焉

金子はピストルを出す。

銃口は後藤へ。

ここで最後の謎、後藤がなぜミアを置いてドームを出たのかが明かされる。

兄が同性愛者で勘当されたというのは嘘で、本当は自分が同性愛者で勘当された、つまり「兄はいない」のだった。

恋人としてなかなか受け入れられず、後藤は苦悩の末、もう一つのドームへと移った。

明日の船上でもう一度話そう、と告げて。

後藤は引き金を引かれる瞬間、「神様」とつぶやいた。

その時大きな鳥が金子に襲いかかった。

銃弾は逸れ、後藤の耳を掠めた。

その隙に後藤は金子に斧を振り下ろす、銃を持った右手が砕ける。

不破はよろめいて地面に膝をつく、傷口が開いたようで出血している。

3人とも血を流しているところに、船が近づいてくる。

 

終わりに

最後、3人がどうなったのかは描かれないまま終わる。

全員大なり小なり出血している、船が着くまで持つのか。

本土までは持つのか。

その肝心なところを描かないで終えたのが素晴らしいと思う。

3人の命が助かるかはどうかはそれこそ「」のみぞ知ることだから。

月蝕

後藤は、ミアを置いてもう一つのドームへと移った。

その時、月蝕は見なかった、ということになる。

月蝕どころではなかったのだろうな、きっと。

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